桜貝の恋

外で待ち合わせて 少し早めのランチ

行くあてもなく 人混みの中をなんとなく歩いて

帰り着くあなたの部屋



あなたは黙ってカギを開け

あなたに続いて部屋に入った



真夏の昼下がりの強すぎる陽射しが

室内の温度を上げ

二人の体温を上げていく




小さな部屋の真ん中で

あなたはふいに立ち止まり

振り返って私を抱いた

やわらかく

やさしく




あなたはいつもそう

大切なものを扱うように

大切なものを壊さないように

そっと そおっと 私に触れる




私はあなたの首に腕をまわして

少しの隙間もないくらい

あなたと重なる





ねぇ

不安なの





どうしてこんなに不安なのか

何がそんなに不安なのか

自分でもわからない



あなたと一緒にいるのに

あなたの腕の中にいるのに





もっと強く抱きしめて





あなたの腕に力がこもる





もっと





もっと






だんだん

だんだん

腕の力が強まって

骨が軋んで





もっと





肺が圧迫されて

魂を吐き出すように

最後の吐息が口から漏れた






もっと





声にならない吐息でつぶやく









これ以上やったら骨が折れちゃうよ






あなたは静かに微笑んで

両の腕の 力を抜いた








骨が折れてもいいの

潰して

壊して

あなたの腕で